円覚寺の門前にある白鷺池には、「八代執権北条時宗が、新しい寺の創建地を探していた時、鶴岡八幡宮の神霊が白鷺に姿を変えて北鎌倉のこの地に導いてくれた。」との伝説が残る。
弘安5年(1282)、円覚寺は臨済宗円覚寺派大本山、山号は瑞鹿山、開山は宋の無学祖元(仏光国師)、開基は八代執権北条時宗によって創建された。時宗は、文永・弘安両役(蒙古襲来)に殉じた彼此両軍死者の菩提を弔い、己の精神的支柱となった禅道を弘めたいと願い、且つその師無学祖元への報恩の念から円覚寺の建立を発願したといわれる。
瑞鹿山の名は、『円覚寺開堂の日、無学祖元禅師の説法を聴こうとして集まった多くの人々と共に、この白鹿洞穴より白鹿が群れをなし、禅師の説法を聴いたという』ことから、「瑞鹿山」と定めた。
総門をはいると杉並木囲まれた境内が広がり、三門は天明3年(1783)の再建で、伏見上皇の宸筆「圓覚興聖禅寺」の額がかけられ、楼上には聖観音菩薩像と十六羅漢像がまつられている。
仏殿は元亀4年(1573)の仏殿指図をもとに建てられた伝統的禅宗様式の風格ある建物で、後光厳天皇窟筆「大光明宝殿」の額がある。
仏殿前の両脇には、大きなビャクシン(柏槙)が植えられている。
本尊には宝冠釈迦如来坐像が祀られている。本尊の頭部は鎌倉後期の作で、胴部は江戸初期の補修。脇侍の梵天・帝釈天立像は元禄5年(1692)の作といわれている。
仏殿には、菩提達磨(達磨大師)坐像と無学祖元(仏光国師)坐像が祀られている。
天井には前田青邨監修、守屋多々志の揮毫による雲竜図がある。
禅堂・坐禅場といもいわれる選仏場は、七堂伽藍の古い型式を伝えるもの。正面奥に、運慶派の南北朝時代の作と伝えられる薬師如来像と観音菩薩像が安置されている。
令和元年(2019)11月2日~4日の3日間、鎌倉彫の作品が展示された。
鎌倉の名産品「鎌倉彫」の歴史は古く、鎌倉時代に運慶の子の康慶が、宋の工人・陳和卿の持っていた彫漆工芸を真似て仏具を作ったのが最初と考えられている。
方丈の正門である唐門は、天保10年(1839)の建立。屋根の形が弓を横にしたような形をしているので、これを「唐破風」といわれる。
松と鳥、獅子や像(または獏)、扉には龍・雲・波濤など、見事な彫り物が見られる。
方丈前の百観音は江戸時代、拙叟尊者が百体の石仏を岩窟に泰安したことが由来となり、明治に至って今北洪老師が整備された。
方丈は昭和4年(1929)建立の入母屋造の壮大な建物で、本来は住職の居間だが、現在は各種法要、坐禅会や説教、夏季講座などの講習会や秋の宝物風入など、多目的に使われている。
方丈の裏には心字池を中心とする禅宗庭園がある。
白鷺池とともに創建以来の庭園であると伝えられ、自然の岸壁を景色に取り込んだ名園。庭園北壁に露出する大きな岩が、『扶桑五山記』に伝える虎頭岩がある。妙香池は何度も改修が行われたためか、創建時とは異なってしまっていたが、平成13年(2001)、江戸時代初期の絵図をもとに改修工事が行われた。
仏殿の南側にある洪鐘道の階段を登ると、弁天堂と国宝・洪鐘がある。
江の島より招来した弁財天をまつり、60年ごとに江の島弁財天と当山との間で「洪鐘大祭」が盛大にとり行われている。
円覚寺の洪鐘は鎌倉三名鐘の一つで、北条貞時が江の島弁財天に参籠し、天下泰平、万民和業を祈り、天安3年(1301)に鋳造された。
【塔頭 正統院】舎利殿の特別公開(令和元年(2019)11月2日~4日)開催
正月の三が日、5月の連休日と11月の宝物風入の時には、舎利殿の特別公開が開催されている。
国宝の舎利殿がある正統院は、通常非公開になっている。
「現在の舎利殿はもと西御門にあった鎌倉尼五山の一つで、室町初期創建の太平寺が廃寺になった後、その仏殿が正続院に移築されたものと考えられる。鎌倉時代の禅宗様の特色を色濃く残している。裳階を有する単層入母屋造であるが、花頭窓・扇垂木・桟唐戸などの禅宗様の特色が強くみられる。
内陣には、明和2年(1765)につくられた御宮殿に、三代将軍源実朝が宋の能仁寺から請来したという仏牙舎利がおさめられ、脇侍に観音菩薩像と地蔵菩薩像が安置されている。」(※)
【塔頭 仏日庵】
仏日庵は、初め円覚寺開基の北条時宗の廟所で、その墓堂として建立され、のち北条得宗家の廟所として時宗夫人の覚山尼や北条貞時、北条高時の墓所となっている。本堂には、延命地蔵尊が公開されていた。
堂内には八代執権北条時宗・九代執権北条貞時・十四代執権北条高時の尊像が安置されている。現在の開基廟は江戸時代文化8年(1811)に改築された。
【塔頭 黄梅院】
黄梅院は、北条時宗夫人の覚山尼が時宗の菩提のために建立した華厳塔の地に、後に足利氏が無学祖元(仏光国師)の塔所として建立した。室町時代に寺盛を極め、古文書なども多い。
聖観音堂には、中国から請来した聖観音菩薩立像が安置されている。
【塔頭 松嶺院】
もとは不閑軒といい、寺地には40世大拙祖能の塔所の青松庵があったと伝えられている。大拙祖能坐像と、154世で松嶺院の中興といわれる奇文禅才坐像が安置されている。
【塔頭 居土林】
居土林は禅を志す在家のための坐禅道場、もと牛込にあった柳生流の剣道場を、昭和3年(1928)柳生徹心居士より寄進され移築した。
【塔頭 桂昌庵】
桂昌庵は三門の左側にあり49世承先道欽の塔所。かつて十王堂橋にあった十王堂の十王像を移してまつり、十王堂・閣魔堂ともいう。現在は弓道場となっている。
【洪鐘弁天大祭 2023年10月29日】
朝方の雨が上がり、北鎌倉周辺では60年に一度の「円覚寺洪鐘弁天大祭」が行われた。八雲神社(山ノ内の鎮守)の大神輿、面掛行列、張子の洪鐘などの歴史ある行列が見られた。
【紅葉 11月】
11月下旬から12月上旬にかけて、境内の紅葉が見頃を迎える。